「月面中継 成功への軌跡」

NHKのBSの世界のドキュメンタリーで、「月面中継 成功への軌跡 (前編・後編)」 (原題: Live form the Moon) という番組をやっているのを見た。

アポロ計画で、月面からのテレビ中継がどのように行われたかを扱ったドキュメンタリーだが、40年もたって、今まで聞いたこともなかった裏方事情がたくさん出てきて驚いた。アポロ計画については今までもさんざん色々なことが取り上げられて報道されたことと思うが、こうやって日の目を見ていなかった情報もまだまだたくさんあったのだと感心する。まあ、どこかでは報道されていたのかもしれないが、少なくともこういうことにある程度は興味をもって見ている私の目にもとまったことはなかった。それとともに、これまでずっと疑問に思っていたことの理由がいくつかわかってすっきりした。番組は翻訳ものだが、元の番組も今年の製作で、今になってこういう事情を発掘してきた製作者と、また日本に翻訳して紹介した担当者に拍手を送りたい。

ここで番組の内容をなぞることはしないが、今回解消した私の以前からの疑問は次の3つ。

1つ目で最大のものは、アポロ11号で月面から中継された、着陸船の前で飛行士が動いている有名な白黒の映像。単に画質が悪いのはともかく、動いている飛行士の映像が尾を引いたように見えるし、飛行士が着陸船の前を横切ったときに、どうも幽霊のように少し透けて見える。いくら画質が悪いテレビでも前にかぶさったものが透けて見えるはずがないだろうから、これは妙な映像だなあと以前から思っていた。しかし、一時期アポロ計画は嘘だったみたいな話が流行ったときも、色々と理屈に合わないと言う点を指摘したりしている割には、このことで何か言っているのは聞いたことがなかった。まあ、それが計画が嘘だったという理由にもできなかったからかもしれないが。そもそも、あまりあの映像が透けて見えて変だと言う人を聞いたことがないのだが、みなさん何とも思わないのだろうか?

さて、透けて見える理由は次の通りだ。ドキュメンタリーの中でも透けて見えるのがヘンだが、こういう理由だという説明がされていたわけではないが、どのように中継が行われたかという説明を聞いて納得がいった。当時の技術では、通常のテレビ放送規格のテレビ映像信号を月面から中継するのは無理だった。そこで、電波の帯域を減らすために、まずカラーではなく白黒、走査線の本数も減らし、コマ数も1秒に10コマという、スロースキャン方式のテレビ方式にした。現在ならコマ数を落として撮影しても、パソコン上ででも動きがカクカクしながらでも見られるように、いかようにでも処理できるが、当時としてはそんな技術もない。遅いスキャン速度で撮影した映像は遅いスキャン速度で表示するブラウン管に映して見るしかない。テレビ中継では、そのスロースキャンのブラウン管に映した映像を、通常のテレビカメラで撮影したものを放送していたというわけである。そんなことをしていたとは今になって初めて聞いた。

これで画質の悪さと、(6分の1の重力による動作そのもののではない) 映像の動きの鈍さは説明できるが、ではどうして透けて見えるのか。スロースキャンのブラウン管で映像をちゃんと見るには、普通のブラウン管に使われるよりも残光性の高い蛍光体を使わないと前のコマとの映像がつながらない。逆に、そのために動きの早い映像では前のコマの映像が残ってしまう。背景でずっと固定している着陸船はずっと同じ映像が映っているので、蛍光体はその映像の残像が強く残り、動いている飛行士の映像が重なっても半分透けたように見えるという理屈だ。

次に2番目。最後のアポロ17号の着陸船が帰還のために月面に下半分を残して上昇していくシーン。カラー映像なのだが、基本的に色彩のない月面と、着陸船自身も全般的に白くあまり色彩のあるものではない。ところが、エンジンを噴射して上昇する際の、噴射の炎ではなくて、周囲に飛び散るおそらくは吹き上げられた石片などが赤青緑と色とりどりに色づいている。これも何かの技術的な事情によるものだろうとは思っていたが、これもどんなカメラを使っていたかを聞いて納得。

最初の月着陸に持って行くカメラはまずその白黒低解像度スロースキャンカメラと決まっていたが、やはりカラー映像もなんとか中継したいと考えられた。当時のカメラは撮像管という真空管の一種でできていて、小型化には限界があった。しかも白黒ならそれがひとつで済むがカラーカメラには光の三原色分の3本の撮像管が必要になり、カメラが巨大になってとても月に持って行くわけにはいかないのだった。そこで考えられたのが、カラーホイールによる単管でのカラー伝送方式である。この方式はカラーテレビの開発初期に一度は考えられたものだが、実用的には少し問題があるため、その当時としてももはや過去のものとなっていた技術である。3色それぞれの撮像管の映像を同時に重ねて伝送する通常の方式と違って、1つの白黒カメラの前で3色のカラーフィルタをつけたホイールを回転させて1コマごとに各色の画像を順番に送っていく方式である。これなら、撮像管はひとつで済むのでカラーホイールの分が増えるだけで、カメラは比較的小型で済む。

実用放送に採用されなかった理由でもあるこの方式の欠点は、動きの早い映像で色ズレが起こることである。カラーフィルタが次の色に切り替わったときには撮影対象は既に動いているので、その差の部分では色が正しく表現されない。アポロでは、この欠点に目をつぶって、カメラの小型化を優先したわけだ。カラーホイール方式は、現在でもDLPプロジェクターで同様の原理のものが使用されている。スキャンが高速なのであまりわからないが、画面を見ながらすばやく瞬きをしたりすると、色が割れて見えるのがわかる。さて、そう言われて他の月面からのカラー中継映像を見てみると、確かに動いているもののフチの部分が色づいて見える。

そんなわけだから、画面の上でゆっくり上昇する着陸船はそれほど不自然ではなくても、まわりに高速で飛び散る石片はそれぞれ一箇所で1つの色のフィルタにしか映らないから、色とりどりに見えるという次第だ。

ちなみに、この映像にはもうひとつエピソードがあって、上昇していく着陸船を地球から操作するリモコンカメラで追っていくのだが、電波が届くのに時間がかかるため、画面で着陸船が上昇するのを追いながら操作したのでは遅い。前のアポロ16号のときにもうまく撮影するのに失敗していて、もう次がなくなったアポロ計画最後の17号で、最後のチャンスとなったが、このときには無事うまく撮影できたというのは、この番組で見るよりも以前から聞き知っていた。しかし、着陸船が月面を離れた後ももちろん電気の残っている間は月面上に残されたカメラは動いていて、そのカメラで上部の上昇した後の残りの台座部分をアップで撮影した映像は、私としてはこの番組で初めて見た気がする。

さて、最後の3つ目は少しオマケのような感じだ。月面に人類最初の一歩をしるす瞬間として飛行士が着陸船のハシゴを降りている有名な映像は、実は最初に降り立ったアームストロングではなくて2番目に降り立ったもうひとりのオルドリンが降りるときの映像である、なぜなら最初に降り立つ前にカメラが月面にあって撮影しているはずがないから、とまことしやかに言う話を何度も聞いたことがある。そんなはずはないのだが、よく事情を知らない者が単純な推測からそんなことを言うのかもしれないが、実によく聞く。

実際はどうかというと、四角形をした着陸船の台座部分の角の位置にあるハシゴを降りるアームストロングを、横方向、四角形の辺の位置にあるカメラから狙って撮影されている。まあ、それで先に人が降りて撮影していたのでないことがわかるには十分だが、とはいえ、それではそのカメラが実際どのように着陸船本体にくっついていたのかは実は見たことがなかった。番組ではそこも詳しく紹介されていた。

着陸船の側面の一部が蓋のように開くようになっていて、カメラはその内側に装着されていた。着陸後その蓋を開くと中からハシゴの方向を狙ったカメラが外側に出てくるという仕組みだ。第一歩の撮影後は、飛行士がそこからカメラを取り外して使用する。装着の都合上、第一歩の撮影の状態ではカメラが上下逆さまになった状態にしかできなかったため、(おそらく先のスロースキャン=通常映像変換をするところで) スイッチひとつで画面の上下を入れ替えられる仕組みが用意されていたのだが、最初はメインのアメリカの中継局では気付かずに逆さまの映像を送っていて、バックアップのオーストラリアの中継局からの映像が正しく上下切り替えていたので、あわててそちらに切り替えたといったエピソードもはじめて聞いた。

と、まあ、こんなところだが。本当に興味深い番組だった。

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