正立天頂プリズム

最近、正立天頂プリズムが気になりだした。きっかけは、観望会の際に知人の持ってきた比較的安価な自動導入経緯台に載った屈折望遠鏡に装備されていた天頂プリズムが正立タイプなのに気づいたこと。

天頂プリズム

「正立」天頂プリズムの話に入る前に、まずは天頂プリズムとは何かという話から。望遠鏡で天体を見るとき、地平線に近い高度のものを見るときはそのまままっすぐ覗いても苦にならないが、高度の高いものを見るときは下から覗き上げるようになって、観察者がつらい体勢をとらなくてはいけなくなる。これを回避するために、接眼レンズの手前で光軸を90°折り曲げて、上から覗き込むようにして見られるようにするためのものが、天頂プリズム、あるいは天頂ミラーである。プリズムだったりミラーだったりするのは、単に使っている素材の違いで、原理は同じ。ミラーはちょうど45°の角度に鏡を置いて反射させるもの。プリズムというと、光を7色に分ける用途を思い浮かべるが、ここではそうではなく、直角プリズムの一方の短辺の側の面から垂直に光が入射し、ミラーの場合と同様45°傾いた長辺の側の面でプリズムの内部で全反射し、反対の短辺の面から垂直に出て行く。プリズムとミラーがあるのは、一眼レフカメラのファインダーのところにも、ペンタプリズムが使われているものと、ペンタミラーが使われているものがあるのと同様のことだ。外見も、覗き込んでみなければ天頂プリズムと天頂ミラーの区別はあまりつかない。

観望会などで見ていると、結構この天頂プリズムにとまどう人も多い。望遠鏡を覗くのに、見る星のある方向でない方向を覗き込まないといけないのは直感的に不自然だからだろう。しかし、色々な人に望遠鏡を見てもらうのに、天頂プリズムが便利なのも事実である。単に体勢が楽というだけでなく、大人から子供まで色々な身長の人が見る場合に、上を覗きながら中腰になったりして目の位置を調整するより、下に覗き込むようにして体をお辞儀する深さを調整する方が対応できる範囲が広くて楽である。更に、もっと身長の低い子供には、天頂プリズムを回転させて横から覗くようにして見てもらうこともできる。観望会でなくとも、覗く体勢が楽だから、写真撮影でなく眼視の場合には、たいていは天頂プリズムを使って見ていることが多いだろう。

なお、この天頂プリズムの話はケプラー式の屈折望遠鏡やカタディオプトリック式の望遠鏡の場合の話で、横から覗くニュートン式反射望遠鏡では当たらない。

像の見え方

一般的な天頂プリズムは、像が一度だけ鏡面で反射されるため、見える像は鏡像、つまり裏返しの像になる。天体望遠鏡では一般的に、地上用望遠鏡や双眼鏡と違って、わざわざ像を正立にするための余計な仕組みを持たないので、そのまま覗くと、望遠鏡の原理上の理由によって像は180°回転した倒立像となる。天体は上下ひっくりかえっていてもそれほど困らないから、それよりも余計な光学系を挿入して少しでも像が劣化することがない方がいいというわけである。この場合は180°回転しているのであって、鏡像になっているのとは違う。何か描いた紙を手に持って見ているとしたら、それを同じ面を手前に向けたまま、くるりと180°回転させた状態である。これは、上下と左右をそれぞれ入れ替えた状態とも言える。一方、鏡に写った像というのは、紙を裏返して反対側から透かして見た状態になるので、天頂プリズムを通した場合、望遠鏡本来の倒立像とはまた別のひっくり返り方が加わる。鏡は像を上下方向で反射させるように置いているので、像は上下に反転する。紙を裏返するのに、縦にひっくり返した状態になる。そこで、元々の望遠鏡の倒立像と、天頂プリズムでの鏡像とが組み合わさると、上下は2回反転して元通り、左右だけが逆になった像になる。つまり、鏡だけを横に置いて見た場合と同じである。

さて、なんだかこんな説明しているとこんがらかってしまいそうなことが起こっている結果、天頂プリズムのついた望遠鏡をのぞくと、実際に見ているのとは左右逆の鏡像を見ているということになる。天体を見るには像が逆になっててもそれほど困らないだろうとはいいながらも、実はやはりこれは結構困ったことである。最も顕著なのが月を見た場合で、月は肉眼で形状が確認できるのに、望遠鏡で覗くとその欠けている方向が逆に見えるわけだし、月面上のうさぎが餅をついていると言われる模様も裏返しに見えるのはどうも具合が悪い。もっと詳しく拡大してクレーターの形状を観察しても、写真などと見比べると、倒立像になっているだけなら写真をひっくり返して見ればまあなんとかなるが、鏡像になっていたのでは、なかなか頭のなかでマッチングさせることが難しい。月でなくても、星の並びを星図と見比べる際にもやはり同様に脳内マッチングがとりにくくて困る。この鏡像に見える問題はどうにかならないものかと常々思っていた。

正立像で見るために

鏡像を直すというよりはどちらかというと倒立像を直すのが目的と考えられるが、正立像を得るための仕組みはいくつかある。双眼鏡にはポロプリズムやダハプリズムが使われている。望遠鏡の接眼部に取り付けるものとしては、望遠鏡の原理でもう一度像を倒立させて見る地上用アイピースといったものや、天頂プリズムに似ているが曲がる角度が45°になっていて正立像を得る45°正立プリズムはよくある。45°正立プリズムは、天頂プリズムのように光軸を曲げるのが目的ではなくて、できれば真っ直ぐに見たいのだが、プリズムで簡単に正立像にするには45°曲がってしまうのを我慢していると考えた方がいいように思う。像が倒立すると不便な地上用に使うフィールドスコープなどでもよく使われる。45°正立プリズムには、ダハ式の双眼鏡一部分に使われるのと同じダハ面を使ったシュミットプリズムというものを使って正立像にしている。

90°光軸を曲げて鏡像にしないためには、シュミットプリズムと似ているが、通常の天頂プリズムに使われる直角プリズムの反射面のところをダハ面にしたアミチプリズムというものを使うことによって、ダハ面で左右が入れ替わり、上下方向に反射させることで元々上下が入れ替わっているので、合計して倒立像となり、元の望遠鏡の倒立像に組み合わせると、元通りの正立像になる。というわけだが、あまり需要がないのか、はずかしながら、これまでそういう天頂プリズムに実際にお目にかかったことはないと思っていた。

正立天頂プリズムの付属した望遠鏡

そんなわけで、90°に曲げるプリズムで正立像にするものというのはあまり一般的でないのかと思っていたが、そこで冒頭に紹介した知人の望遠鏡についていた天頂プリズムである。あれっ、90°に曲がる天頂プリズムなのに鏡像になってないではないか、と驚いた。しかも、それが特に特殊な望遠鏡でもなく、セレストロンのLCMという比較的入門向けの望遠鏡である。

そこでちょっと調べてみると、よく入門用でちゃんとした望遠鏡としておすすめされるビクセンのポルタII A80Mfのセットにも、正立天頂プリズムが付属しているということである。宇宙かふぇにあったのがこれで、実際に何度か使っていたが、鏡像かどうか気にしたことがなかった。ところが、たまたま以前の記事を読み返していると、この記事の中で、ちゃんと正立であることに気付いたことを書いていたのを見つけた (そんなことは自分ではすっかり忘れていた)。ところで、A80Mfよりわずかながら上級機のA80Mには、写真撮影を意識してか、正立天頂プリズムではなくフリップミラーが付属している。

更に調べてみると、ビクセンではミニポルタA70Lfにも正立プリズムが付属しているが、もっと安価なスターパルのシリーズは通常の天頂ミラーだ。他に量販店の店頭に並んでいるものをチェックしてみると、ケンコー・トキナー扱いのミードの入門向けの屈折望遠鏡には正立天頂プリズムがついていた。しかし、ケンコー・トキナー製品のスカイエクスプローラーは通常の天頂ミラー。

いずれにしても、案外比較的入門向けの望遠鏡に正立天頂プリズムがセットにされていて、これはメーカーが初心者が鏡像で混乱しないようにと考えてのことなのだろうか。しかし、もっと安価なモデルではコストを切り詰めるために正立はあきらめて最も安価な単純なミラーが使われてるといったところか。

続く

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