ASI290MCで惑星撮影 (その6) ― ADC(大気分散補正プリズム)

ASI290MCでの撮影のオプション機材追加の話題はまだ続く。今回は以前の記事でも少し触れたADC (Atmospheric Dispersion Corrector: 可変式大気色分散補正ウエッジプリズム)。地上から惑星撮影のように天体を極端に高い倍率で拡大して見ると、大気層を光が斜めに通ってくる際に屈折してその屈折率が波長によって異なるために、惑星の像が色によって位置がズレて見えてしまうのがわかる。特に高度が低いときに顕著になるが、今の時期木星、土星、火星はいずれも黄道が赤道よりも南側にある領域にあって、南中したとしてもあまり高度が高くならないので、この色のズレが大きいということになる。

RegistaxにもAutoStakkert!にもパソコン上でRGBの3原色のデータになったものの互いの位置のズレを推測して補正する機能があるので、これで画像上の見た目の色ズレ感はほぼ解消できるが、RならRとして記録されている波長の範囲内で短いものと長いものではやはり違う位置に像を結んでいるわけでその分だけ画像データ的には同じ色でもボケた画像になってしまっているはずである。

ADCは大気によるわずかな屈折角のズレを元に戻す程度の非常に角度の浅いプリズムを2枚重ねてつくってあり、それらをの重ね合わせる向きを互いに回転させることによって、合成したプリズムの角度を可変できるようにしたものである。これで波長に対して連続的に補正ができるのでほぼすべての波長で元の位置が同じものは同じ位置に見えるようにできるはずということになる。

惑星撮影の標準装備として、長焦点望遠鏡、バローレンズ、ADC、惑星撮影用カメラ、というのが一般的な構成なのだが、上記のソフトウェアの機能によって、ADCはなくてもまあなんとかごまかせるし、こまかし切れないボケが気になるほど鮮明な画像が撮れるほどでもないだろうということで、まず最初にカメラとバローレンズを購入したときには購入しなかった。しかし、やはり実際に撮影を始めてみると、EOS 60Dで撮っていたものよりは結構よく撮れるし、いずれ鏡筒もいいものにグレードアップしたときにはきっと必要になってくるということも見越して購入したくなってきた。

手頃な価格で、性能も特に問題なく、定番になっているのがやはりZWO社のものだったが、今年の頭くらいにだったか、これまでは水準器がついていなかったのが、水準器がついたバージョンにモデルチェンジした。これはカメラと一緒に買っていなくてかえってよかったのかもしれない。ところが、いざ購入しようと思ったら、火星大接近が近づいてきたせいか、どこの販売店でも品切れとなっていた。惑星撮影用品の扱いでは老舗なエリクトリックシープや、馴染みのある販売店で比較的最近扱いだして自分がカメラを購入したKYOEIなどがみなまだ7月入荷予定という火星大接近にぎりぎりどうなのという入荷予定になっている中、ある日、スターベース東京の通販サイトの表示が「在庫なし」でなくなっているのを見つけて、急いで注文した (今日現在また在庫なしになっている)。

ADCを実際に使う状態が下の写真。これを望遠鏡のアイピースを挿すところに挿す。色々接続するとどんどん長くなってしまう。

Camera, ADC, Barlow Lens

さて、急いで入手したものの、しばらくお天気が悪くて1週間ほど待ったが、火星が見えた日に、シーイングはそれほどよくなかったし相変わらず火星表面の砂嵐はおさまっていないようだが、ADCありなしの比較撮影をしてみたが、どうも結果にびっくり。まずは写真を。最初がADCなしで、後がADCあり。

Mars w/o ADC
Mars 2018/07/09 23:05 ZWO ASI290MC, Celestron NexStar 5SE (D125mm f1250mm F10), X-CelLX 3x Barlow Lens, AutoStakkert!3, Registax6, Trimmed. Duration=180s, Shutter=15ms, Gain=237 (39%), 10% of 11,706frames

Mars w/ ADC
Mars 2018/07/09 23:23 ZWO ASI290MC, Celestron NexStar 5SE (D125mm f1250mm F10), X-CelLX 3x Barlow Lens, ZWO ADC, AutoStakkert!3, Registax6, Trimmed.  Duration=180s, Shutter=15ms, Gain=290 (48%), 10% of 11,111frames

まず、撮影時からすぐにわかったのは同じ鏡筒、同じバローレンズ、同じカメラを使っているのに、画像のサイズがずいぶん違うこと。これは「その2」の記事のバローレンズのところでテレセントリックが云々と言っていた件で、これまではバローレンズに直にカメラを接続していたのに対して、ADCはバローレンズとカメラの間にはさまる形になる。バローレンズからカメラまでの距離が変わることにより、このバローレンズでは拡大率が変わってきてしまうということのようだ。

FireCaprureでは、撮影した画像のサイズと実際に見えるはずの天体の大きさから、撮影した光学系の合成焦点距離を推算した値がログファイルに記録されている。それを見ると、ADCなしではおよそ4,800mm前後の値なのに対して、ADC使用時は6,500mmくらいの値になっている。本来は、鏡筒の1,250mmにバローレンズの仕様では3倍で、3,750mmのはずだが、それよりずいぶん拡大されている。

像が大きくなったことで、解像度の高い画像が得られてうれしい反面、面積あたりの光量は減ってしまうため、画像としては少し暗くなるので、適正露出にするために、Gainの値を少し上げる必要があった。大接近中の火星はとても明るいので、その点では問題はないが、暗い目の土星などの場合は光量的にはあまりうれしくない。ともあれ、このバローレンズを使う以上、このようになる。

ところで、実際の色ズレはどうかというと、ADCなしの画像ではRegistaxにRGB Alignをやらせると、R: +3、B: -4 ドットのズレになっていた。ADCを使用した場合は、補正量をどれだけきっちり合わせられるかによるのだが、多少補正ズレは残るだろうから、ADCで補正済の画像にやはりRegistaxのRGB Alignをかけると、修正量は、R: +1、B: -1だった。そして、各色内で波長の違う光の結像位置のズレによるボケが減っているかどうかは、画像を見ても実はよくわからない。

しかし、画像が大きくなったことによってなのかもしれないが、火星表面の模様はADCなしの場合よりとてもよくわかるようになっていると思う。画像の強調による擬似輪郭の出方が、画像全体のサイズが大きくなって目立ちにくくなっているのではないかとも思う。本当は、もっと細かい模様がくっきり見えるような条件のときに撮って比べたいかったところではあるが。

これまで惑星撮影時には大きさの比較がしやすいように、どの惑星を撮ったときも同じ画像サイズにトリミングしていた。EOS 60Dで撮っていたときはそれしかなかったので問題なかったが、ASI290MCで撮るようになって、EOS 60Dで撮ったものと直接比較できなくなった。前回の中接近のときはこのサイズだった、とかできないわけである。画像も少し大きめなので、トリミングするサイズも大きくしたが、ここにきてADCを使うとまたサイズが違ってしまう。ADCを使うことにした以上はいつも使うようにして使ったり使わなかったりが混在しないようにしたい。

 

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