2020年12月 のアーカイブ

木星と土星の大接近

今年2020年は、終わり間際になって色々とめぼしいものが集中した感じがする。前2つの記事に続いて、滑り込みだが、こちらも年内に記事にしておかないといけない。

木星と土星の会合は20年ごとに起こるが、その中でも今回は約0.1°と非常に接近して、望遠鏡で高倍率の視野でも両方が一度に見えるというので、前から楽しみにしていた。まだ少し離れたうちから近づいていって離れていくところをずっと観測できればいいが、木星と土星は観望の好期をずいぶん過ぎて、夕方西の空低くにわずかな間にしか見られない。しかも日の入り時刻が早いこの時期ということで、平日は仕事をしているとなかなか見るのが難しい。しかも、お天気も必ずしもいい日が多くはなかった。

そんな中で、最接近より少し前だが、接近している木星と土星の近くに細い月が巡ってくる12月17日はお天気がよさそうだったので、コロナ対応で時差通勤しているのを利用して、早い時間に仕事を終えた後、帰宅する足で、出掛けに駅のコインロッカーに預けておいたカメラと三脚だけで急いで撮影に向かった。前の記事の夜光雲と同様、南西方向に障害物のない場所で見る必要があるということで、実は夜光雲を見るのに当初予定していた場所というのは、この木星と土星の接近を見るためにいい場所はないかと事前に探してあった場所だった。

Moon, Jupiter and Saturn 2020/12/17 18:06 Canon EOS 60D, EF-S55-250mm F4-5.6 IS II (70mm F4), ISO800, 2sec, Photoshop CC, Topaz DeNoise AI
Moon, Jupiter and Saturn 2020/12/17 18:09 Canon EOS 60D, EF-S55-250mm F4-5.6 IS II (250mm F5.6), ISO800, 2sec, Photoshop CC

最も接近するのは12月21日だが、前日の20日の日曜日は天気がよかったので本番の練習ということで望遠鏡も出して撮影。

Jupiter and Saturn 2020/12/20 18:07 Canon EOS 60D, Celestron EdgeHD 800 (D203mm f2,032mm F10), prime focus, ISO1600, 2sec, Photoshop CC

この日はガリレオ衛星が全て西側に並び、しかも一見ひとつ多くて5つ並んでいるように見えるが、一番外側にあたるのは、たまたまこの位置にあるやぎ座の恒星。ステラナビゲータによると3重星らしいが、分離しては見えなかった。その内側から木星に向かって順にカリスト、ガニメデ、イオ、エウロパ。エウロパはほぼ木星にくっつきそうに見えるが、これは衛星がよく写るくらいの露出にすると、惑星本体は露出オーバーになって実際よりも大きく写ってしまっているため。土星も環と本体の隙間も見えず単なる楕円形に見えている。土星の衛星は右側にタイタン、そしてレアがその肥大した土星像の上端、中央から少し左寄りにかすかに飛び出ているように見える。

翌21日の本番は、平日で仕事だが、17日のように時間ギリギリでは望遠鏡を用意できないので、お天気が大丈夫そうなのを確認して午後半休をとってしっかり準備。まずは、前日の写真との比較のために、望遠鏡に一眼レフの直焦点で撮影した画像を。

Jupiter and Saturn 2020/12/21 17:31 Canon EOS 60D, Celestron EdgeHD 800 (D203mm f2,032mm F10), prime focus, ISO1600, 2sec, Photoshop CC

前日と位置が変わって、木星系は、カリスト、ガニメデ、木星、イオ、エウロパの順。そして、前日は並びの一番外側にいたやぎ座の恒星が、イオのすぐ近くに見えている。木星系の方がこちらに移動してきたと言った方がいいのかもしれないが。この恒星とイオの位置関係は、この日見え始めてから沈んで見えなくなるまでの間でずいぶん変わる。木星に対する衛星の動きより早いようだ。また、色がずいぶん違って見える。土星の衛星は、前日と同じタイタンと、土星の左側に外れてわかりやすくなったレア。そして、右側のすぐ近くにはディオネもかすかに見える。

しかし、この撮り方だと、衛星と、木星、土星の明るさが差がありすぎるために、前述のように、衛星がよくわかるような露出で写すと像が肥大してせっかくの木星の縞模様や、土星の環がわからなくなってしまう。ちょっとHDRもどきで、別露出で撮った画像を組み合わせてこんな感じにできなくもないが、露出差の縮め方はちょっと控え目にたらいまひとつ中途半端だし、いずれにせよインチキである。

前日の練習でそう感じていたので、本番では惑星の拡大撮影に使っている天体用カメラでの動画撮影、スタッキングも試した。こちらのカメラは視野角が非常にせまいので、木星と土星がいくら接近しているといっても一度に入らないのではないかと思ったが、惑星の拡大撮影をするときのようにバローレンズを入れず、ROIも切らず、衛星系全体を画面におさめるつもりでなければ、画面の長手方向を使えば2つの惑星はなんとかおさまるのだった。

Jupiter and Saturn 2020/12/21 18:00 ZWO ASI290MC, Celestron EdgeHD 800 (D203mm f2,032mm F10), ZWO UV/IR Cut Filter, FireCapture2.6, AutoStakkert!3, Registax6, PhotoShop CC, Duration=60s, Shutter=6ms, Gain=300 (50%), 25% of 4,922frames

これで、土星の環も木星の縞模様もわかり、木星と土星の明るさの差も実際こんなもんだろう。だが、衛星はよくわからなくなっている。まあしかし、今回の現象は、写真で何やかややるよりも、やはり眼視で鑑賞するのがいちばんよかったように思う。暗い衛星から、明るい木星の模様まで同時によく見られるのだから。

ここまで、拡大画像ばかりだったが、全体の景色の中で大接近した二大惑星はどんなふうに見えたかというと、こんな感じ。

Jupiter and Saturn 2020/12/21 17:40 Canon EOS 60D(mod), EF-S55-250mm F4-5.6 IS II (55mm F4), ISO800, 4sec, Photoshop CC

非常に接近しているといっても、肉眼で十分に分離して見えた。何も知らずに目に入っただけならひとつの星と思ってしまうかもしれないが、それとわかって注視すれば、木星の隣に暗めの土星が見えているのがはっきりわかった。しかし、肉眼で見たときは木星と土星の明るさの差は望遠鏡で見たよりも顕著で、明るい星が2つあるというよりは、明るい星の脇に暗い星が寄り添っているという感じだった。ベツレヘムの星はこういう現象であったかなどとも言われるが、そこまでのインパクトのある光景というほでどもないように思った。今回の木星と土星の間隔は、おおぐま座のミザールとアルコルの間隔 (0.2°) よりもずっと近いのだが、ミザールとアルコルはいまだかって識別できたことがない。明るさの問題なのか。

最初から仕掛けておけばよかったのだが、だいぶ沈みかけてから、比較明の軌跡の写真にすれば、明るい軌跡が2本非常に近くに寄り添った画になるなあと思って撮り始めた。地平線まで残りわずかだったので、通常よりかなり望遠な画角になっている。位置の関係でマンションの建物の角で一旦隠れて、側面から出てきてからまだずっと沈んでいくのが見えるかと思ったら、上のまだ空の明るいときの写真を見てもらえばわかるが、山の稜線はマンションとたいして変わらない高さにあって、すぐに見えなくなってしまった。他の恒星は皆地平線近くになって夕日が赤くなるのと同じ原理で赤く見えているが、木星・土星の軌跡は明るすぎて白飛びしてしまって赤くなっていたのがわからない。

Jupiter and Saturn 2020/12/21 18:15~18:32 Canon EOS 60D(mod), EF-S55-250mm F4-5.6 IS II (135mm F7.1), ISO800, 4sec×230, KikuchiMagick,Photoshop CC

この日の木星と土星の距離は0.11°、翌日も0.12°とほぼ違わないくらいの接近距離だが、2日続けて午後半休を取るのも気が引けるし、前日と当日続けて見られたのでこれで十分ということにしておいた。

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H-IIAロケットによる夜光雲を撮影

なかなかblogに書くのが遅く、時系列的にも前の記事と半分前後するが (リュウグウの撮影よりは後、はやぶさ2の撮影より前)、2020年11月29日に種子島から打ち上げられたH-IIAロケット43号機の打ち上げによって発生した夜光雲を平塚の海岸から撮影することができた。

H-IIAロケットによる夜光雲
H-IIAロケット43号機による夜光雲 2020/11/29 17:25 Canon EOS 60D, EF-S55-250mm F4-5.6 IS II (109mm F5), ISO800, 4sec, Topaz DeNoise AI, Photoshop CC

関東地方からはるか離れた種子島から打ち上げられるロケットだが、特定の条件を満たすと、その航跡にできる雲が夜光雲として見えることがある。2017年の1月の32号機でも同様の現象が見られたが、この日は平日で普通に仕事をしていたので見ることができなかった。条件とは、まず、打ち上げるロケットの軌道が東方向に向かって打ち上げられ、関東南方上空を飛んでいくものであること。極軌道という地球を縦に周る軌道の衛星を打ち上げる場合などには、こちらから見える方向に飛んでこないので見られない。もうひとつは、地上では日が沈んでいて暗く、上空高くでは太陽の光が当たっているという状況になる夕方の日没後か未明の日の出前であること。これは人工衛星が見える条件とも似ている。

今回の打ち上げが、そういう条件に合いそうだということで事前に情報が飛び交っていた。運良く日曜日でもあるので、ぜひ見ようと思い、最近自宅の近くに開拓した南西方向が比較的地平線近くまで見える場所で見ようと思っていたが、当日になってみると天気があまり思わしくなく、見られなさそうであった。SCWを見ると、西の方なら曇ってなさそうである。小田原あたりまでいけば天気は大丈夫そうだが、地形的に西方向が山になってくるのでうまくない。酒匂川河口あたりならどうだろうかと思ったが土地勘のない場所なのでどうしたものかとか考えていたが、遠くに行くには時間がかかる。悩んでいるうちに、打ち上げ時刻に到着するには間に合わなさそうになってきた。方針を変えて、お天気は少し微妙でももう少し東で早く行けて南西方向がよく見通せる場所で、たまたま今年一度行ったことがあって勝手のわかる場所ということで、平塚の海岸にあるひらつかビーチパークに向かうことにした。

到着時の空

高速を飛ばして無事打ち上げ時刻前に現地に到着し、ネット中継を聞きながら、すでに店じまいした建物の壁の前でカメラをセッティングした。種子島も天気は曇りで、打ち上がったロケットはすぐに雲に突っ込んでしまった。こちらは現地到着時にはすでに日は沈んではいるもののまだまだ空は明るかったが、空は結構雲で覆われているものの、多少晴れ間は見える。実際は打ち上げ時刻に間に合う必要はなくて、ロケットは飛んでいった後だが、空が暗くなってこないと見えないので、そのくらいの時刻には酒匂川にも到着できたかもしれないが、まあやはり時間の余裕もあった方がいいので、ここにしてよかっただろう。

あとは、暗くなって夜光雲が見えてくるのを待つだけだが、なかなか見えてこない。天体現象のように、ピンポイントでどの場所に見えるというのがわからないので、おおむね南西方向を探しているが、なかなかみつからない。雲はどんどん増えてくるが、地平線との隙間には晴れ間が残っている状態。17:05に種子島からのツイートで現地で夜光雲になっている雲が見えているという情報が入ったがまだこちらでは認められず。17:18に思っていたよりも少し西よりの位置にやっと見えだした。そこからだんだんはっきり見えるようになってきて、17:25に撮った一番よく写っていると思えるのが最初に載せた写真。空はかなり雲で覆われていたが、南西の方の伊豆半島の稜線との間にわずかな晴れ間にちょうど夜光雲が見えて実に幸運だった。高度にしてほんの数度である。

その後しばらくしてからだんだん空に溶け込み始めて、17:38頃にほぼ見えなくなっている。駐車場の時間が18:00までだったので、ちょうどタイミングがよく、そこで撤収して車に戻り、帰途についた。

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リュウグウとはやぶさ2を撮影

探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウで採取したサンプルを地球に持ち帰ってくるのに合わせて『2020年12月6日の【リュウグウ&「はやぶさ2」おかえり観測キャンペーン】』というのが実施され、小惑星リュウグウや探査機はやぶさ2の撮影を募っていた。ただしいずれも地球から見ると非常に暗くしか見えず、最初に見たときは説明に口径30cmの望遠鏡が必要と書かれていて、(私の持っている最大口径の) 20cmじゃ無理かぁ、とtwitterでつぶやいていると、以前プラレアリウム33箇所巡りでお世話になったFさんに、リュウグウなら写ると思います、とそそのかされ、まずはチャレンジしてみることにした。その後、キャンペーンのサイトのその説明はいつの間にか20cmに書き換わっていた (笑)。

これまでにそのような暗い天体の撮影といえば、探査機ニューホライズンズの到着にちなんで冥王星を撮影したことが思い出されるが、冥王星は14等程度だが、リュウグウは16.6等と書いてあって、また一段と暗い。とはいっても、当時は口径127mmのNexStar 5SEしか持っていなかったし、自宅からの撮影だったが、口径20cmのEdgeHD 800を持って、最近ちょくちょく利用している近くのちょっとした山の上の場所に行けば、2~3等級の差はなんとかなるんじゃないかと思った。

たまたま、後に「令和2年11月快晴」と呼ばれることになる11月14日の夜、いざ撮影にチャレンジした。この場所は街に近いので街のある東側の空は全然暗くないが、西側の方はそこそこ暗い。リュウグウはペガススの首と前足の間にあって、この時期はもう遅くなると西に傾いてきているので好都合だが、あまり遅くなると高度が低くなってきてしまうので、あまり遅くならないうちに撮影する。AVX赤道儀にEdgeHD 800を載せる。最近はblog記事をあまり書いていなくて紹介していなかったが、DSOの撮影などにはASiairにiPad miniでSkySafari Plusを連携させてオートガイドと星図画面からの自動導入をしているが、SkySafari Plusにはリュウグウは出てこなかったので、事前にステラナビゲータで確認しておいた位置にファインダーと試し撮りで導入して、オートガイドだけASiairで行った。

リュウグウは、はやぶさ2が探査を行っているときは地球からみると太陽の向こう側、はるか3億kmの彼方にいたが、帰路について地球に戻ってくる間に、地球が軌道をめぐって追いつき追い越す形になって、何のことはないリュウグウとはやぶさ2の距離もたいして離れていないのだった。そんなわけで地球に近づいているからこそ、それでもやっと撮影できるかという明るさになっているわけだが、地球の近くにいるということは相対的に見た目の動きもそれなりにあって、彗星の撮影のときのようにメトカーフコンポジットをする。すると、とても小さい点ながらも、無事リュウグウの姿が捉えられているのがわかった。ちょっと運の悪いことに、ちょうど経路上にひとつ恒星があって、位置が重なってしまうので、連続して撮影した写真全部ではなく、重なってしまう部分はコンポジットから外さなくてはならないのが少しもったいなかった。できた写真がこちら。小さな点ながらも無事写っていてよかった。

162173 Ryugu 2020/11/14 21:44~ Canon EOS 60D, Celestron EdgeHD 800 (D203mm f2,032mm F10) prime focus, ISO6400, 120sec×8, Dark×4, StellaImage8 Metcalf composite, FlatAide, PhotoShop 2021, Topaz DeNoise AI 2.3.3, Trimmed

この時点で地球とリュウグウとの距離は約0.1au。年末に地球に最接近するようだが、ステラナビゲータの光度表示によると、地球と太陽との角度の関係か、ちょうど撮影した頃が一番明るく見える頃だったようだ。

リュウグウの撮影に成功したので、調子に乗ってはやぶさ2の撮影にも挑戦してみることにした。こちらは正確な軌道情報はセキュリティ上非公開になっていて、とても地球に近くて観測場所によって見える位置が違ってくるので、申し込んだ人だけに、その観測地から見た赤経赤緯のデータが送られてきて、それも他人に見せたりしてはいけないということである。このデータを元に、ステラナビゲータの追加天体の.adfファイルを作成して読み込ませてステラナビゲータ上に時々刻々の位置を表示させる。

さて、撮影機材だが、相変わらず自分の持っている性能のいい望遠鏡はEdgeHD 800であるが、はやぶさ2のみかけの移動量はリュウグウの場合とは比べ物にならないくらい大きい。リュウグウでは暗いから長時間露光してなんとか撮影しても、1コマ撮影している間では日周運動を追尾していればほぼ点像に写ったが、こちらは暗いからといって悠長に長時間露光していると、その間に動いてしまって線になってしまい、ひとところに光が重ならずに薄い像になってしまう。EdgeHD 800は焦点距離も長いのでその分拡大して見え、画面内でのみかけの動き量も大きなものになる。最初に紹介したサイトの撮影ガイドのページにおおまかな時刻と移動量などが書いてあるので参考にしてもらうといいが、早い時間のうちはまだ地球から離れていて動き量が少ない。この間はシュミカセでもなんとかなるのではないか。逆に距離が遠くて光度が暗いので、焦点距離の長いものの方が背景が暗くなって暗い星までよく写るはずで有利とも考えられる。口径もそれなりにあることだし。

一方、地球に近づいてくると光度は明るくなるが、動きが急激に大きくなってくる。焦点距離の短い鏡筒を使えば画面内の動き量は小さくなって光が引き伸ばされてしまいにくくなる。更に、1コマの軌跡を長くしないためには、できるだけシャッター速度を短くすればいいが、それを補うためにはISO感度を上げるかF値を小さくするかである。手持ちの機材では適当なものがないので、ここはこの日だけ性能のよい機材をレンタルするということを考えた。カメラを高感度の性能のよいものにするという手もあるが、慣れないカメラで当日操作を誤ったらいけないので、これは少々心許ないが現用のEOS 60Dで我慢しておくことにする。望遠鏡のレンタルというのもあまりないと思うが、F値が小さいほどいいなら、カメラレンズでF値の小さい望遠レンズということで、いわゆるサンニッパ、300mm F2.8のレンズあたりがよさそうと考えた。普通に買うにはとても手が出せない価格のものだが、レンタルなら1日だけだしまあそれなりの値段で借りられる。

カメラ機材のレンタル屋というのは初めて利用したので、利用しようとするとまず保証人として勤務先の連絡先まで書かされた。それで審査があってから会員登録完了となったが、そこでwebから申し込もうとすると、あまりぎりぎりに申し込んだせいで、webからは3日先の分からしか申し込めないとなっていて、電話して申し込むことになった (電話なら受け付けてくれる)。それで電話でキヤノンのサンニッパを借りたいと言うと、残念ながら全部予約済だという。何かイベントですかねぇと言われたが、まさかみんなはやぶさ2を撮るために借りに来ているわけではないと思う。品揃えの中から他にはシグマの120-300mm F2.8というのがあったので聞いてみたがこれもやはりないとのこと。Fのもっと大きいレンズならあるようだが、そこは譲れない。ヨンニッパ、400mm F2.8ならあるというので、値段が倍近くに跳ね上がるが、もうここは仕方ないのでそれを予約した。

サンニッパであってもそうだったのだが、高額商品ということで、会員登録時の保証人とは別に、あらためて親族に保証人になってもらって直接連絡して確認することが必要という。これも仕方ないので実家の親の連絡先を届けて、事前にレンタル屋から保証人の確認の電話があるから大丈夫と返事してくれと頼んでおいた。すんなり了解してくれたが、考えてみたらなんだか怪しい詐欺電話のようである。翌朝にすぐに電話確認されたようで、OKのメールが来たが、実家からは後になって、言われた通り電話がかかってきて返事はしたが、変な詐欺じゃないだろうなと、心配して私の携帯に電話がかかってきた。まあ確かに100万円以上もする商品を借りるわけで保証人の確認が要るというのはわからないでもない。しかし、書面の取り交わしが必要とかではなくて電話で確認するだけということで手続きが間に合ってよかった。確認が取れたのは撮影日の前日。配送では間に合わないのとレンタル日数が増えてしまうので、翌日撮影当日の日中に受け取りに行って、その夜から翌日未明にかけて撮影である。

レンタル店に行くと、はじめての利用でいきなりこんな高額商品の利用だからか、何撮るんですか、スポーツか何か、と聞かれたので、天体写真を…と言うと、ああこの時期空がきれいになってきますからねぇ、というので、や、そういうことではなくて、はやぶさ2という探査機が帰ってきて、などという会話をして、ずいぶん変わった客だと思われたかもしれない。ヨンニッパのレンズというのは実際にさわるのは初めてだったが、これはなかなか巨大である。うちのNexStar 5SEの鏡筒 (D=127mm) より口径がある。まあ計算してみれば確かにそうなのだが。しかも、普通のレンズならAF/MFの切り替えと手ブレ補正のON/OFFくらいだが、撮影距離範囲の切り替えやら、プリセットやら、手ブレ補正モードの切り替えやらいっぱいスイッチがついている。こちらはマニュアル撮影なので全部OFFにする。

さて、これを赤道儀に載せないといけないが、適切なアリガタレールを持っていなかったので、これはレンタルの手続きの前に、いずれにせよ必ず必要と思って、よさそうなものを見繕ってネットで注文してあった。天文機材屋からも色々出ているが、ケンコーのミルトル用のオプションとして出ているKF-RMというのが都合がよさそうだったのでこれにした。ヨンニッパの三脚座の底には1/4と3/8の2つのカメラネジが縦に並んでいて、3/8の穴には1/4のアダプタが最初から嵌っていて、この2ヶ所にちょうどKF-RMの付属のネジを前後で固定してしっかり取り付けることができた。ネジ穴がひとつだとさすがにこの大きなレンズを赤道儀に取り付けて傾けたら自重で回転して緩んでしまったりしたら大変だが、2ヶ所で止まっていれば安心だ。ネジを締めるのには、六角レンチで回すキャップボルトとかではないので、ずいぶん前に買ったコインドライバーが活躍した。

撮影当日、昼間にはやぶさ2はリュウグウで採取したサンプルの入ったカプセルを切り離し、その後、自身はそのままだとカプセルの大気圏突入するのと同じ軌道のままなので地球を離脱するコースに乗るための軌道変更を行った。軌道変更が予定通り行われたということで、撮影するはやぶさ2は事前にもらった予報通りの位置に見られるはずということになる。暗くなった頃から、既に大きな望遠鏡のある天文台からは撮影成功どころか、本体だけでなくカプセルまで写ったという報が流れてくるが、こちらはもう少し遅くなってから撮影場所にでかける。

撮影は予定通り、最初の光度が暗くて動きが小さい間は、シュミカセで長時間露光で。といっても、少しでも有利になるようにISO感度をこのカメラの最大にしたのでそれほど長時間でもない。このカメラの最大はISO12800だが、常用は6400までで、12800は画像がひどく荒れてしまうので、普段は構図合わせのための試し撮りを短時間で済ませるためとかにしか使わないが、今回はそんなことは言ってられない。そのISO感度で背景が明るくなってしまわないシャッター速度にすると、15秒とかになってしまう。そのくらいの時間ならオートガイドの必要もないのでASiairは使わないことにして、AVX赤道儀はステラナビゲータからの自動導入だけにした。最初はカシオペヤα星の近くにいるので、アライメント星のひとつをカシオペヤα星にしておけばそこからほとんどズレなしで自動導入できた。ステラナビゲータに表示した追加天体の各時刻の位置と周囲の星の並びを確認しながら、はやぶさ2の現在位置が画面に入る位置に合わせて撮影するが、まるで写っている気配がない。いくらかパラメータを調節しながら撮ってみたが全然わからない。とはいっても、後で画像処理すればなんとか浮かび上がってくるかもしれないから、わからないながらも撮影を続けた。画面を軌跡がきれいに横切り現在の位置が画面の端近くになるようにしてしばらく連続撮影。はやぶさ2が画面の反対の端に近づいたら位置をあわせ直す、を繰り返した。

だんだん画面内の移動量が大きくなってきた0時半くらいから、シュミカセをやめてヨンニッパのカメラレンズに切り替え。こちらはシュミカセのF10に比べてF2.8とはるかに明るいので、最初はISOを少し下げてみたが、やはり写っている気配がないので、ISO12800に上げた。こうなるともうシャッター速度は2秒である。それでもその場で確認している分にはまるでわからなかったが、まあだんだん近づいて明るくなってくると写るようになるかもしれないし、シュミカセのときと同様に少しずつ位置をずらして追いかけながら撮影を繰り返した。

ちなみに、この日は月齢20過ぎの月が、撮影方向とは逆の東の空にだが煌々と輝いていた。撮影風景が下の写真だが、星がよく写る明るさで撮ると月明かりで山の木々もよく見え、地面には三脚の影が映り、空は青空に写っている。暗い空でも星景写真などでは空の色は青めに調整する向きも多いが、これは色味を振っているわけではなくて、いつものように太陽光固定で撮っていて、月明かりがなければどちらかというと光害でオレンジ色ぽく写っているところである。月の光が明るいせいで、昼間の空が太陽の光を散乱して青空になるのと同じ原理で、昼間よりは暗いながらも空の色が青くなる。

結局、はやぶさ2の姿は写っている気がしないまま、地球の陰に入る時刻に達して撮影終了。わざわざ高いレンズをレンタルまでしたのにダメだったかと気落ちした状態で、オーストラリアのウーメラにカプセルが大気圏突入するののネット中継を眺めながら機材を片付けて帰宅した。

帰宅後も撮影した画像をパソコンの画面でざっと見てみたがやはりどうも写っている様子がなく、とりあえずちょっとだけ寝ようと思って寝たが、目が覚めたらもうお昼過ぎだった。ネットには成功裏に撮影された画像も色々アップされていて更に落ち込む。各地の撮影報告を見ると、この日は運良くほぼ日本中お天気がよかったようだ。そんな中、国立天文台三鷹の50cmの公開望遠鏡では動画で撮影されたものがあったが、それを見ているとあまり周囲の暗い星まで写っているわけではないのにちゃんとはやぶさ2が写っている。これで写っているのなら私のにも写っていないはずがない気がした。撮影時刻がきっちり入っていたので、撮影場所はそんなに離れていないのでほぼ同じ位置に見えているはずだから、自分の写真と星の並びを照らし合わせてみれば、機材の能力が足りずに本当に写っていなかったのか、自分の座標のプロットの仕方が間違ってたのか、もしかしたら、少しズレたところに写っていたりするのかとかを確認できるのではないかと思って、国立天文台の動画に写っているのと同じ星の並びのパターンを照合し、その位置にいたのは間違いないという確信をもって階調強調した画像を見てみると、なんと短い線状の像が写っているのが見つかった。プロットは間違っていなかったし、機材も能力を発揮していた。前後のコマにもきちんと移動しながら写っている。

結局、よくわかるくらい写っていたのははやぶさ2が地球に近づいてきて明るくなってきた最後の方だけだった。いちばんよくわかるひと続きの撮影分を比較明合成したのが下の写真。よく撮っているISSの軌跡写真などに比べると間隔がずいぶん空いているが、これはホットピクセルのノイズなどがひどいので、通常のDSOの撮影などのように多数枚撮った後にダークを複数枚撮ってダーク処理するのではなく、その場で1枚ごとにカメラ内で「長秒時露光のノイズ低減」を行う設定にしたために、撮影後に同じ時間だけカメラ内でダークを撮る時間だけBUSYになって次の撮影がされないためである。その他の処理時間もかかって、2秒撮影、およそ3秒休み、くらいの間隔で撮影されている。また、背景が全体に青っぽいのは、先に書いたのと同様に月明かりがある空を明るく撮ったせいである。通常の天体写真なら背景をニュートラルグレーに調整するところだが、ここでは敢えて青味を残したままにした。

Hayabusa2 2020/12/06 01:54~55 Canon EOS 60D, Canon EF400mm F2.8L IS II USM (F2.8), ISO12800, 2sec×9, lighten composite, FlatAide, PhotoShop 2021, Trimmed

ともあれ、まがりなりにもはっきりそれと判別できるだけに写っていてよかった。実家の親にも面倒をかけてまでレンズをレンタルした甲斐もあったというものだ。リュウグウ、はやぶさ2ともに撮影できてとてもうれしい。

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