ネオワイズ彗星 (C/2020 F3)

blogを再開してからも、どうも一旦落ちたペースはあまり戻らず、ほとんど記事が書けていなかったが、これはすぐにでも書いておかないわけにはいかない。

ヘール・ボップ彗星以来といわれる明るい彗星、ネオワイズ彗星 (C/2020 F3) が現れているが、ちょうど梅雨の最中でなかなか見られない。天気予報を見る限り、梅雨の中休みのような晴れの日も期待できず、このまま暗くなるまで毎日悪天続きのようである。きれいな彗星の画像の送られてくる北海道がうらやましい。そんな中、運よく土曜日の未明に、すぐに行ける範囲でわずかに晴れ間の出そうな予報があったので、この機会を逃したらもう見られないかもしれないと、行ってきた。

ネオワイズ彗星が見られるのは今のところ未明の午前3時頃。GPVの詳細の予報で土曜日の午前3時の予報が見られる木曜の昼間に千葉方面が雲が薄そうになっているのを見て、できれば行って観測しようと考え始めた。行ったことのない場所なので土地勘がないが、夜中に車が止められて、彗星の高度は10°以下と低いので見える北東方向が開けている場所を考えると、九十九里浜のどこかということになった。九十九里浜の海岸はカーブしていて、北寄りの方では北東方向が陸に寄って来る。南寄りなら海面上に見えるはずなので、そちらの面での条件はいいが、雲のかかり方の予報では南の方はあまりよくない。とりあえず、いくつか候補場所を選んでおいた。

当日夜にやはり予報で千葉方面が雲が薄目なのを確認して出発を決意。千葉だけでなく東京湾の上も晴れてそうである。海ほたるで観測するという情報も聞こえてくる。出発前に、GPVの20:30の更新画像をみると、時間によっては自宅付近も雲が少ない予報になっており、それならわざわざ出かけなくても、自宅から北東方向は都心の光害はあるもののの見通しはよいし、機材も手持ちのものを自由に使って落ち着いて撮影に臨める。だが、一瞬予報がよくなっただけで当たる保証はないので、やはり予定通り出かける。九十九里に向かうのにアクアラインを通って行くので、海ほたるで一旦休止し、23:30のGPVの更新を見て、自宅付近の予報がよさそうならそこで引き返す、九十九里より東京湾がよさそうならそのまま海ほたるで、やはり九十九里がよさそうならそのまま九十九里まで、という予定で出発した。

果たして、海ほたるに到着して確認してみると、やはり自宅付近は論外になっていて、海ほたるか九十九里かというとやはり九十九里まで行った方がよさそうだったので、そのまま足を進めた。しかし、千葉県に入ってからも、時々雨が降ったりで、これで星空が見えるのかと思う一方、前方の空に雲間から月が見えたりもしていた。最初に目的地にしていた釣ヶ崎海岸に行ってみるが、どうもカーナビが違うところを案内したようで、右往左往したあげく、正しい場所に行きつきはしたが、到着した時点で雨がザーザー。まあ通り雨のようなもので、その止んだ後は晴れるのかもしれないし、実際、雨がやんだら雲間から月と火星は見えたが、やはりあまりの雲のどっぷりさに、予報では雲の少ないもう少し北の方に移動することにした。九十九里ビーチタワーという小さな展望塔のようなもののある不動堂海岸についてみると、まだ雲はあるものの、きれいな星空が広がっていて、夏の大三角がきれいに見えていた。しかし、北東の空は、カシオペヤやペルセウスは見えるが、地平線近くには雲があった。

九十九里ビーチタワー九十九里ビーチタワー

ちょっとどうしようかと考えあぐねていたが、現地には自分以外にも車が何台か来ていて、単に夜中に海を見に来たカップルもいたが、やはり彗星狙いらしい二人組が、タワーの下のところで設営を始めていた。さらにもう1名機材を持った人がやってきて、こちらはタワーの上に陣取ったようだ。まあ、ここまで来ておいて何もしないで帰るというのもないので、ダメ元でも機材設営はするかと、自分もタワーの上で先に来ていた人の脇の空いているスペースに機材を運び込んで設営開始。

彗星の尾は長く伸びていて、望遠鏡では画面からはみ出てしまうくらいなので、今回はカメラレンズでの撮影で、広角と望遠でそれぞれ撮る計画。まずは、広角用のカメラをセットアップして撮影してみるが、もう地平線から出ているはずだが、まだ高度が低いせいかよくわからない。とりあえず、時折撮影して写っていないかながめながら、望遠用の方をセットアップ。こちらは固定撮影だと星像が流れるか微妙なところだが、念のためポラリエに載せる。ドイツ式赤道儀型強化版にしたので、天の北極が画面の上向きになる。雲がなければ不自然ではないのだが、地平線に沿ったような層をなす雲が、斜めに見えてちょっと変な感じだ。彗星は見えてこないが、近くのぎょしゃ座の星を頼りに彗星の見える位置を狙って試し撮りを繰り返しているうちに、なんとなく筋状の光が写るようになった。しかし、まだ肉眼はおろか、双眼鏡で見ても全くわからない。

やがてだんだんはっきり写真に写るようになってくると、双眼鏡でもよくわかるようになってきた。広角の方でも写るようになった。しかし、肉眼ではどうもよくわからない。雲のもやもやにまぎれてなんとなく核の部分がぼんやり光ってるように思える程度の見え方だった。自信をもって肉眼彗星を見たと言うには少々心もとない。

常に雲がかかっていて、なかなか尾全体がきれいに見えることがなかったが、まあ一番よさそうな写真がこれ。多数撮ってスタックしたかったが、とても連続して雲のかからない写真は撮れなかった。

C/2020 F3
Comet NEOWISE (C/2020 F3) 2020/07/11 03:22 Canon EOS 60D, EF-S55-250mm F4-5.6 IS II (171mm F5.6), ISO3200, 8sec, StellaImage8, Topaz DeNoise AI, Photoshop CC,

広角で撮った方の写真はこちら。少し広角で撮りすぎたか、海岸より陸地側の画面で左側には強烈なライトがあって画面が見苦しいので、横位置で撮っていたものをトリミングして、上下幅はそのままで縦長画面になるようにした。ぎょしゃ座の五角形が画面におさまっているがθ星だけ雲に隠れてよくわからなくなってしまって残念である。固定撮影なのだから、連続でインターバル撮影にしてたくさん撮っておけばよかった。

C/2020 F3
Comet NEOWISE (C/2020 F3) 2020/07/11 03:12 Canon EOS 60D, SIGMA 10-20mm F3.5 EX DC HSM (20mm F3.5), StellaImage8, Topaz DeNoise AI, Photoshop CC, trimming

まあ、お天気は厳しい状況でそれほどには上手く撮れなかったが、そうはいっても本格的に天体写真を撮り始めて以来はじめての立派な彗星の写真を撮れて、遠出をした甲斐があった。

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短いmicroSDカードアダプタ

通常SDカード挿入状態

先日購入したIdeaPad S540だが、そのときの記事にも書いたように、SDカードを挿入した際にカードがかなり外にはみ出して、装着しっぱなしで使用するには少々心もとない。

ボールペンのノックや、push-pushタイプのON/OFFスイッチのように、一度押し込むとロックして、もう一度押すと飛び出てくるタイプのものだと、押し込んだ状態ではカードが全部本体の中におさまってしまうようになっているのが普通で、それで困らないわけだが、その機構のないカードスロットでは、取り出すためにカードをつまむ余裕がないといけないので、カードの一部をはみ出させておかないといけないのは仕方ない。しかし、こんなはみ出ていなくてもいいのにとも思うが、ともかくハードウェアがこの形にできてしまっている。

しかし、フルサイズのSDカードならもう致し方ないが、使っているのはmicroSDカードで、それをアダプタに入れて挿入している。それこそ、push-pushタイプのスロットに使うのなら、アダプタは正しくSDカードの大きさでないといけないが、こういうスロットでしか使わないならば、何も正しいSDカードのサイズでなくても構わなくて、もう少し短いものがあればいいのに、と思って探してみたら、あった。随分前からそういうものは存在したようだが、自分が必要にかられなかったので、積極的に気にしたことがなく、気付かなかったのだろう。

接点部分の形状や幅は本物と異なると正しく挿入できないので、長さ方向だけが短くなっている。ロックスイッチは省略されている。

表側裏側

通常のアダプタではカードの挿入方向と同じ向きにmicroSDカードを挿入するようになっているが、microSDカードは細長いので、横向きに挿入することによってアダプタのサイズ縮小を実現している。

MacBookのSDカードスロットも同じ様に完全に収納されてしまわないタイプのものがあるようで、MacBook用には各機種専用に、挿入するとちょうと筐体のスロット周囲の窪みにアダプタのお尻がぴったりはまるサイズに作ってあって、取り出すためにはフチを少しだけ切り欠いてあって爪を引っ掛けて引っ張り出すみたいになってものもあった。

しかし、世の中にあまたあるWindowsパソコンに専用サイズのものは用意されていないので、適当な汎用のものを使うしかない。IdeaPad S540のスロットはかなりささる部分が少なく、この短いアダプタでも、割とはみ出たままになっている部分はあるが、元の状態に比べれば格段に邪魔にならなくなってありがたい。

短いSDカードアダプタ挿入状態

 

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StellaShot2試用とM75, NGC7009

以前からStellaShotは気にはなっていたのだが、赤道儀、撮影用カメラ、ガイド用カメラを接続しないといけないのに、前に天文用に使っていたWinタブレットはUSB端子が1つしかなかったとか、StellaShot1.5ではオートガイドはできるもののガイドカメラの機種が限定されていて、惑星用のASI290MCをガイド用に使おうとしても対象機種ではなかったとかということもあって、導入には至っていなかった。

一方、当blog休止中で記事にしていなかったが、多少形態が違うので対抗馬というわけでもないが、天体撮影の統合システムとして、ASiairというのがあって、こちらは上記の制約が問題にならなかったし、StellaShotのソフトウェアの価格より、ASiairのハードウェアの価格の方がずっと安かったということもあって、既に導入済みである。ただし、最近PROバージョンが出たがアップグレードはしていない。

StellaShotの方は、バージョン2になって、このASiairを意識してか、GearBoxという外付けハードウェアもオプションとして出して、ケーブルの接続はこちらが一手に引き受けて、パソコンは無線LANだけで接続ということも可能になった。しかし、逆にこちらのパソコンが買い替えてUSB端子が3つあるものになったので、GearBoxのお世話にならなくても大丈夫になった。対応ガイドカメラも、2.0では「ZWO ASIシリーズ」となっていて特定の機種だけの対応ではなく全部OKになったようである。

そんなわけでGearBoxのハードがなくても大丈夫な環境は整っているので、とりあえず体験版を入れて試してみることにした。

まず最初に失敗したのが、StellaShot 体験版 で検索してあまりよく見ずにダウンロードページに行って落としてきたものをインストールしたところ、どうも様子がおかしいと思ったら1.5の体験版だった。Stellashot 1.xまでとStellaShot2は別モノという扱いなのか、1.5のサイトはそのままで、別に2のサイトがあって、2の体験版はそちらから落としてこないといけなかった。

もうひとつの失敗は、パソコン (IdeaPad S540) にUSB端子が3つあるといっても、USB-A端子が2つとUSB-C端子なこと。これまで使っていた手持ちの接続ケーブルは全部A端子なので、USB-C端子には直接つながらない。これもまだ記事にしていないが、先日買った耳かき付きUSBカメラに付属品でUSB-C変換コネクタが付いてたからそれを使えばいいやと思っていたのだが、それはmicro-USBからUSB-Cに変換するものなので、ここでは役に立たないのだった。とりあえず、必要なケーブルはヨドバシカメラの通販で注文を入れておいて、ガイドカメラは使わず、赤道儀と撮影用カメラだけの接続で試してみることとなった。

機器の認識はすんなり行って、赤道儀にCelestron Advanced VX (経緯台のNexStar SEは対象機種になっていないので選択肢に出てこなかった)、カメラはCanon EOS 60D、今の所3つ同時に接続はできなかったが個別に接続してオートガイダーにZWO ASI290MCもちゃんと認識された。

StellaShotは、タブレットPCでの利用も考えてボタンなどのUIが全部大きくかったり、数値入力は入力用パッドが表示されたりして、タッチで操作しやすいようになっている。前のWinタブレットのときは、結局使用するWindowsアプリがキーボードマウス操作が前提になっているので、常に無線接続の外付けキーボードと一緒に使用しなければならず、知らない間に充電切れになっていたり、色々苦労していたが、これならそんなこともなかったのかもしれない。が、もう大きいパソコンになったので、別に関係なくなった。

実際にベランダで望遠鏡を空に向けて使ってみるが、自動導入もウリの導入補正もすんなり行った。導入補正はとてもありがたい機能だ。ASiairにもプレートソルビングという同様の機能があるのだが、これまで使っていてどうも失敗することが多く、なかなか頼りきれない感じだった。もちろん導入する対象領域にもよるだろうから一概にはいえないが、今回試したところでは、たまにしか失敗しなかったし、だいたい露出が適正でなかったとか原因はわかる。成功するときはあっという間にマッチングされる。失敗するときは失敗が確定するまでにずいぶん時間がかかる。操作も、ASiairではいろいろひとつのタブレット画面に詰め込んである上に、SkySafariと行ったり来たりする必要があるのに比べると、パソコンの大きな画面でやりやすい。

StellaShot2の新機能として極軸補正の機能がついた。北極星の見えない南向きのベランダで使用するときはありがたい機能なので試してみようと思ったが、どうも極軸補正のボタンが見当たらない。PDFマニュアルを見ても設定パネルの極軸補正ボタンを押すとしか書いていなくて、よくわからない。結局極軸補正を試すのもあきらめた。まあ、ベランダでは方角ははっきりわかっているので、いつも三脚の置き方でだいたい北は正しく向いているはずなので、極軸補正なし、ノータッチガイド (という言葉は常々おかしいと思っているのだが) で撮影することとした。

未明に木星、土星、火星を撮影するついでに試そうと思ったので、その時点でベランダから見える天体ということで、木星、土星付近にあった、球状星団 M75と、土星状星雲 NGC7009を撮影してみた。どちらも視直径の小さな天体で、モニタ画面では小さな光の塊にしか見えなかったが、画像処理した結果はM75はきちんと球状星団に見えたし、NGC7009は内部の輪のような構造がいちおうわかるように写っていた。それにしても小さいので、画像は写野の中央部だけをトリミングしてあるが、それでも小さい。

M75 M75 Globular Cluster 2020/05/02 03:16~ Canon EOS 60D, Celestron EdgeHD 800 (D203mm f2,032mm F10), prime focus, ISO3200, 15sec x 34, Dark x 11, DSS, FlatAide, Topaz DeNoise AI, Photoshop CC, 1/2 trimming

NGC7009NGC7009 Saturn Nebula 2020/05/02 03:29~ Canon EOS 60D, Celestron EdgeHD 800 (D203mm f2,032mm F10), prime focus, ISO3200, 15sec x 40, Dark x 11, StellaImage8, Topaz DeNoise AI, Photoshop CC, 1/4 trimming

後でわかったのだが、極軸補正ボタンが見当たらなかったのは、Windowsの表示設定の関係であった。最近のWindowsパソコンは、画面のドット密度が高くなって、従来のようにドット数固定サイズのアイコンや文字の大きさで表示すると、実表示サイズが極端に小さくなってしまうため、適切な割合を設定して拡大して表示するようになっている。このパソコンでは150%が推奨値として最初から設定されていた。その状態でStellaShot2を動かすと、設定パネルに表示される項目が画面の縦いっぱいに表示しきれずに、はみ出た分は見えなくなってしまうというわけだった。上から順番に表示されて一番下ではみ出て切れれば気付いたのかもしれないが、操作パネルは上のタブで切り替えても固定表示される項目が下端に固定されていて、タブ項目ごとに異なる操作ボタンではみ出たものは、その固定表示の上の部分で切れることになる。ところが、パネル内の項目の区切り線が固定部分との区切りも同じデザインで並んでいるため、そこにそういう境目があるのに気付かなかった。確かに、よく見ると補正/設定グルーブの上の極軸パターンのボタンの下端が少しだけ切れている。

結局、これは150%だった拡大率を125%に変更することで表示されて操作できるようになったが、そうするとシステム全体でアイコンや文字の大きさがひとまわり小さくなってしまって、近くに焦点の合いづらい眼には少しつらい状況になる。タブレット操作のときも、ボタンは大きめに表示された方が操作しやすいだろう。はみ出た分は、FireCaptureやSharpCapのように、スクロールするようになっていればいいのにと思った。

アップデータのリリースノートを見ると、2020/3/26の2.0aで『「極軸補正」ダイアログの表示を改善』という項目があるが、これはボタンを押した後に出てくる画面の話のようだし、体験版は2.0aアップデータ相当となっているのでこれは既に含まれているようだ。それ以降のアップデータでこの件が直っているかどうかわからないが、リリースノートにそれらしい項目は見当たらない。

ディスプレイの設定
ディスプレイの設定

150パーセント150%表示で、極軸補正ボタンが見えない

125パーセント125%表示で、全体にボタンが小さくなり、補正/設定グループのボタンが表示されている

150パーセント 125パーセントボタン部拡大 左: 150%表示、右: 125%表示

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Lenovo IdeaPad S540-14API 購入

当blogを休止していた間にも、ネタになるようなことは色々あったが、遡って取り上げるよりも、まずは最新の話題から。

現用機が使えなくなった

先日、これまで使っていたWindowsタブレットDiginnos DG-D09IW2SLが、Windowsの大規模アップデートに失敗した様子で、詳細は省くが、どうやっても再起不能の状態となった。主に天文関係で赤道儀の制御や惑星用USBカメラの画像キャプチャと、プレゼンテーションなどのために外出する際に持ち出す程度のために使っていたもので、最低限度の性能があって小型軽量、そして約3万円という超安価ということで使っていたもの。

ところが、実際使っていると、キーボードが分離型でカバーの背中でつながっているだけ、後ろはカバーの折り畳んだ部分で支える、というので屋外の望遠鏡の近くで使うのに置き場に少し不自由する。そのBluetoothキーボードは本体と別に充電しなければならず、その充電もすぐに切れてしまい、使いたいときに使えないことが多々あった。Windowsタブレットではあるものの実際のところはタブレットモードで使うことはなく、通常のパソコンとして使うには、タッチパッドが小さくて操作しづらい、画面が小さくて操作しづらい。また、電源ボタンの反応がよくない。など、色々不満も多く感じながら使っていたものだったので、もうこれをどうにか復活させるのはあきらめて、新しいものを購入することにした。

買い替え機種選定経緯

上記の反省にもとづき、一応通常のノートパソコンの形をしたものということで、同じくらい安い低性能版のもので探しはじめた。ノートパソコンなので自動的に画面サイズはある程度は大きくなるが、LCD画面はTN液晶のタイプのものが多い。ここで、最近は電視観望といったことに使うことも考えると、できれば広視野角で発色もよいIPSなどのタイプのものが欲しいと思い、多少価格は上がってもそういうものをと探しているうちに見つけたのが、このLenovo IdeaPad S540-14API。3万円程度からは上がって5万円台にはなるが、性能からするともうまったく低性能版ではなく、とても十分なもの。そもそも本来の価格は125,400円のもので、どういうカラクリで最新機種がこの値段になるのかはわからないが、とにかく大変お得で要求事項も十分すぎるほど満たしているので、これを購入することとした。

直販モデルの一番安いもので、表示価格よりも今ならキャンペーンで更に安くなって5万円を切る値段になるようだが、お届けに最低3~4週間かかるということで、その間惑星撮影などができないのは困るので、ヤフオクを検索したら、転売業者なのかは知れないが、キャンペーン価格よりは高くなるものの、キャンペーンで安くなる前の値段よりは少し安い値段ですぐに納品されるものが出ていたので、そちらから購入。正規購入の証拠として、まとめ買いした伝票のコピーが添付されてきた。

IdeaPad S540-14API

使ってみての印象

キーボード

穴を共有するキー

これは購入前にわかっていたが、まず外見で気になるのが、キーボードで、何と言ったらいいのか、一部のキーが隣同士つながった穴におさまっているということ。アイソレーションキーボードが一般的になって久しいが、アイソレーションキーボードではひとつひとつのキーがパネルに空けられた穴から顔を出しているような状態になっている。US配列のキーボードと日本語やヨーロッパのキーボードとは単にキー配置だけでなくキーの形状が一部違うため、パネルの穴の形状も違えないといけないが、それを1種類のパネルで吸収しようという設計のようだ。最も違いが顕著なのはEnterキーでUS配列では横長、日本語配列では縦長になっているのを、隣のキーと一緒に逆L字型の穴があいていて、その2つのキーの間は仕切りがなくキー同士が少し縁をへこませて接している。

見た目はみっともなくて、どうしてそこまでして部品の共通化を図ったのかとも思うが、実際の使用上はさほど問題にならないので、まあいいことにする。

また、キーボードのバックライトがついているので、暗闇の天体観測時のキーボード操作にもわかりやすい。明るさが2段階変えられるようになっているのだが、あまり明るさ差がなく、暗い方ももっと暗くてもよかったのにとは思うが、あまりに眩しすぎるというほどでもないので、まあいいだろう。

あと、これは普通にノートPCなら特別なことではないだろうが、Diginnosでは暗いところでつかうときに画面の明るさを最小にするために、Windowsの画面からディプレイの設定を開いてスライドバーを操作しないといけなかったが、キーボードのファンクションキーで直接画面の明るさを操作できるのでとても楽になった。

タッチパッド

タッチパッドはとても大きくて、手触りもなめらかで非常に操作しやすい。前のとは大違い。2本指でのスクロール操作もやりやすい。私は元々、トラックポイント派なので、あまりタッチパッドは使い慣れずすぐに外付けマウスを使いたくなるのだが、このタッチパッドはストレスが少ない。マウスのクリック操作はボタンのないタッチパッドで一般的なようにタップでもできて、タップの受け付け加減もとてもよい感じなのだが、パッド全体が押さえると沈んでスイッチにもなっている。ただし、上辺が支点になっているので、あまりタッチ位置が上の方で押さえるとうまくいかない。

タッチパッド

SDカードスロット

撮影した動画データをメインで使用しているデスクトップPCに持ってくるのに、前のDiginnosでは内蔵SSDの容量があまりないことと、コピーが一度で済むことから、キャプチャ時の保存先を、挿入しっぱなしのmicroSDカードにしておき、それを物理的に持ってきてコピーするという運用だった。こちらは内蔵SSDの容量は十分あるが、やはりコピーの手間を考えて同じようにしようと思った。microSDではなくフルサイズのSDカードスロットなのは、microSDを買ってきたときについてきたアダプタに入れればいいだけだが、計算違いだったのは、このSDカードスロットが、SDカードが全部中に納まってしまわないで、カードの半分くらいが本体からはみ出たままというタイプだった。会社で使っているノートPCのスロットは全部納まるものなので油断していた。これだと、カードを差し込んだまま本体を持ち運んだりすると邪魔だし、ぶつけて壊しそうだ。

SDカードスロット

ACアダプタ

ACアダプタは比較的小型なのはいいのだが、ちょっと扱いにくい形だ。ほぼ正方形のひとつの辺の端にACプラグがついた形状で、コンセントに挿すとずいぶん突き出た形になり、しかもDCケーブルはその反対辺の中央から垂直に突き出ている。プラグが折り畳めたりしないのもマイナスポイント。

ACアダプタ

画面

画面はIPS液晶で美しい。サイズも14インチあって十分大きくて見やすい。これで惑星撮影などの際にはずいぶん楽になる。外形サイズはもちろん前のDiginnosに比べるとずっと大きくなってしまったが、額縁が非常に細いので、それでもまあそこそこのサイズに抑えられていて、大きなカバンでなくてもなんとか入るのでありがたい。

カメラ

あと、面白いと思ったのがカメラ。単純なことだが、スライド式のフタがついていて、物理的にカメラを隠せるようになっている。不必要なときにソフトの操作を間違ったり、ハッキングされたり(?)して画像が取り込まれてしまう心配がない。購入時はその部分に上からその機能のことを説明したシールが貼られていてそのシールを剥がしていいものなのかどうかよくわからずとまどってしまった。

カメラオープン時カメラクローズ時購入時についていたシール

CPU、メモリ、ストレージ

基本スペックは、CPU AMD Ryzen 5 3500U (2.10GHz 2MB)、メインメモリ 8GB、ストレージ SSD 256GBと、Atom、4GB、eMMC 64GBだったDiginnosからすると格段の進歩となった。CPUやメモリは赤道儀制御、惑星撮影、PowerPointプレゼンなどでは特に困ることはなく、ステラナビゲータの起動時間がとてもかかるので困るくらいだったが、これならば、出先で画像処理などもそれなりにできそうである。

ストレージ容量も、そもそもDiginnosが再起不能になった原因はWindowsUpdate時に空き容量が少なかったせいだろうと思っているくらいだが、256GBあれば色々ソフトを入れても余裕だろう。

まとめ

まあ上に書いた中にあるように多少不満点もあるにはあるが、全体的にはとても満足な買い物だったと思う。これからどんどん活躍してもらおう。

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2019年の当blogアクセスランキング

さて、遅くなってしまったが、飛ばしてしまうわけにもいかないので、まず恒例のアクセスランキング。いつもは年末ぎりぎりに過去1年分のアクセス数を見て記録していたのだが、最近過去のアクセス数カウントの仕様が変わって、年単位の表示にすると、各年の1月1日から12月31日までのアクセス数が表示されるようになった。たまたまだが今回記事が遅くなったのにもかかわらず、今の時点で見ても2019年分だけの数がきっちりわかって都合が良かった。

対象は過去からの全記事。順位の後の括弧内の数字は昨年の順位。まずは一昨年の記事で昨年3位だったものがアクセス数ダントツで1位に。代わりに1位だったものが今回は第3位になり、2位の記事はそのまま2位キープ。この2つは安定の上位維持だ。4位以下は、6位、7位が昨年とほぼ同様の位置をキープしている以外、ランク外から新記事のランク入りが5つで、ずいぶん入れ替わった。新しい記事もあるが、そうでもない古い記事がランクインしてきたのもある。新しい記事を書かなかったために全体にアクセス数が減少しているのと関係があるのかもしれない。過去のランキングはこちら。2012年2013年2014年2015年2016年2017年2018年

第1位 (3) Windows 10でLotus 1-2-3 (2018/01/27) 3,755
第2位 (2) 新幹線自動改札に同時に通せる切符の枚数 (2013/01/16) 1,589
第3位 (1) シャワー洗面台下の水受け (2012/07/22) 991
第4位 (-) ASI290MCで天体撮影 (その5) ― 1.25″ レデューサで電視観望 (2018/07/14) 827
第5位 (-) 正十二面体プラネタリウム用の原図をつくる (2016/07/21) 616
第6位 (6) 姓名の順番 (2005/05/27) 615
第7位 (5) NexStarを赤道儀モードで使ってみる (2012/10/18) 606
第8位 (-) Advanced VX 赤道儀諸々 (2018/08/16) 595
第9位 (-) Google Earthで方位計測 (2013/03/16) 420
第10位 (-) 帯状疱疹 (2012/02/04) 413

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blog再開

4月1日でエイプリルフールではなく、年度替わりで切りがいいということで、しばらく更新の滞っていた当blogを再開しようと思う。

昨年の1月に不幸があって、しばらくの間はバタバタしていてとてもblogを書いているどころではなくて、放置したままになっていた。こういうものは、ある程度間が空いてしまうと、少々余裕ができてもなかなかまたそれまでのように気楽に復活しづらいもので、そう思っているうちにますます空白期間が長くなってしまって余計に再開しづらくなる。丸一年経ったところで再開しようかとも思いつつ、まだそのままになっていた。何かのきっかけがないといけないが、先日たまたま他にも同じ様にblog更新の間が空いてしまっていて再開せねばと思っているという話を目にして、やはり自分も頑張って再開しようと思った次第。そして、ちょうど切りがいいので、年度替わりの今日から復活することとした。

まあ、このあとどのくらい続けて以前通りのペースで書いていけるかわからないが、まずはこれで再開第一歩としたい。

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燃える木星雲と妙なゴースト

Flame Nebula w/ CLS FilterFlame Nebula 2019/01/03 00:33~ Canon EOS 60D(mod), Celestron EdgeHD 800 (D203mm f2,032mm F10), prime focus, Astronomik CLS Filter, ISO3200, 120sec x 37, Dark x 8, StellaImage8, Photoshop CC

前の記事の、オリオン座のランニングマン星雲、馬頭星雲に続いて、同じ時期で近くで撮りやすかったので、またもオリオン座中央付近にある、「燃える木星雲」を撮ってみた。場所は馬頭星雲のすぐ近くで、目印は三ツ星の一番左端のアルニタクのすぐそば。このような長焦点で撮っても同じ視野に入ってくるくらい近くなので、フレーミングには困らない。

ところが、燃える木星雲そのものはまあそれなりに撮れたのだがそのアルニタクが星雲に比べてあまりに明るいために、余計なものが出てきてしまった。アルニタクそのものの周囲の格子状の位置にドーナツ型のゴーストのようなものがたくさん写っている。一体これは何だろうか? まるでタコの吸盤のように見える。

確かにこの領域は、こうやって明るい星が写野に入り込むのでゴーストが発生しやすく、結構みなさん困られているという話はきくが、ゴーストといってもこれはずいぶん妙なものだ。ドーナツ状なのは、ゴーストはピントが合っていない状態で写っているので、シュミカセ望遠鏡の副鏡のところが影になったドーナツ形状になるのはわかるが、格子状に並んでいるのは一体どういうことだろう。

そういえば、昔、iPhone 4 を使っていたときは、空を撮るのに太陽が画面に入ると、なんとなく似たようなゴーストの並びが発生していた。発生原理はこれと同じだろうかどうだろうか。

iPhone 4 のゴースト
iPhone 4 で撮影

格子状にたくさん出ていることから、考えつくのは何か格子状のものによる回折現象くらいだが、格子状のものといっても、撮影光学系の中にあるのは、カメラのCMOS撮像素子かその色フィルタか。その画素の並び自体が回折格子の働きをしてこういう並びの像を発生するのではないだろうか。しかし、撮像素子の部分そのまので回折現象が起きるのなら、自分に写ることはないから、どこかで反射して戻ってくるのがゴーストの原因である。

そこで気になったのが、この撮影でも使用していたクリップタイプの光害フィルタ。撮像素子のすぐ前に置いてあるので、悪影響がありそうである。他に反射するくるものといえば望遠鏡の副鏡や主鏡、そして補正版の裏側くらいだが、そういうものでは拡散してしまってこんなふうには写らなさそうだ。

そこで、フィルタなしで撮影してみてこのタコの吸盤ゴーストは発生しないかどうか確かめようとしたが、なかなかうまく撮る時間がとれず、月が間近で空が明るいところにフィルタなしという状況でしかもあまり枚数を撮れなかったのだが、とにかく比較用ということでできたのが、次の画像。

Flame Nebula w/o CLS FilterFlame Nebula w/o CLS Filter 2019/01/18 23:27~ Canon EOS 60D(mod), Celestron EdgeHD 800 (D203mm f2,032mm F10), prime focus, ISO1600, 60sec x 13, StellaImage8, FlatAide, Photoshop CC

画像処理するまでは、これはゴースト出てないや、と思ったのだが、星雲の像がわかるように深く画像処理をかけてみると、やはり格子状のゴーストが出ている。ということは、クリップフィルタはシロであった。疑って悪かった。

ということは振り出しに戻って、一体どうやってこの像は写っているのだろうか。撮像素子とその保護板の間ではこんなに離れた位置に像はできないだろうし。また、色が赤いのも気になる。ゴーストの光源の恒星の色は白いのに、赤い色だけ選択的にゴーストが発生している。単に長い波長ででだけ起きるということかもしれないが。

原因不明なままなのは気持ち悪いが、ともあれ、こんなゴーストが発生しては見栄えが悪いので、あまり明るい星を写野に入れた構図は避けるしかなさそうだ。

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ランニングマン星雲と馬頭星雲

旧来ずっと天体写真撮影に使ってきたNexStar 5SEとEOS 60Dのみの構成から、昨年夏までに追加して主に惑星撮影に供していた新規機材、AVX赤道儀、HdgeHD 800鏡筒、ASI290MC、に加えて、昨年終わり頃に加わった前の記事までの機材、すなわち、ガイド鏡によるオートガイド、赤外改造カメラ、そして光害フィルタも加えて、これまでうまく撮れなかった星雲類がまがりなりにも撮れるようになった。年末年始にかけて2点ほど撮ってみたものを載せておく。実際のところはノイズだらけでとても人に見せられるレベルの画像でもないが、とりあえずここまでできるようになりましたということで。

ド定番のM42オリオン大星雲は、テスト撮影には使ったがとりあえず置いておいて、まず最初は、その少し北に離れたところにある、通称ランニングマン星雲 NGC1973/1975/1977。人が走っているような形に見えるというが、ベネッセのロゴの一部といった方がいいかもしれないと思う (笑)。これまで、この星雲の位置は漫然とM42の少し北の方と思っていたが、星雲の中に結構明るい星がいくつかあって、これが実はちょうどオリオン座の小三つ星の北の方の星に相当するのだということは、今回撮影しようとしてみて初めて気付いた。M42は小三ツ星の真ん中の星というのは広く知られているが、それと同じような状況である。いずれも、小三ツ星の星のひとつと数えられるわけだが、実際は星雲の中にあるいくつかの星の集まりでひとつと数えられている。

Runningman Nebula
Running Man Nebula 2018/12/31 00:51~ Canon EOS 60D(mod), Celestron EdgeHD 800 (D203mm f2,032mm F10), prime focus, Astronomik CLS Filter, ISO3200, 120sec x 19, Dark x 4, StellaImage8, Photoshop CC

次に馬頭星雲 IC434。これは暗黒星雲としてはあまりにも有名な星雲で、天体写真といえばこの馬頭星雲は定番中の定番だろう。馬の形がまっすぐに見えるように紹介されることも多いが、北を上にすると、横倒しの状態になる。馬頭星雲とは別に画面の左上の方で恒星のまわりが雲をかぶったようになっているのがNGC2023。場所はやはりオリオン座で、小でない方の三ツ星の東端のアルニタクの少し南側という、これもわかりやすい場所にある。

この写真をスタックするときに、なぜかステライメージ8の自動処理ではうまく自動位置合わせができず、画面内の明るい星2つをどういうわけか取り違えて画像を180°回転させてマッチングしてしまったりして失敗していたので、ステライメージの代わりにDeepSkyStacker (DSS) というソフトを使ってスタッキングしてみた。これもCLSフィルタの場合と同じく、以前使ってみようとしたが、どうもうまくいかくなてあまり使っていなかったものだが、今回は、すんなり行った。

Horsehead Nebula
Horsehead Nebula 2019/01/01 01:01~ Canon EOS 60D(mod), Celestron EdgeHD 800 (D203mm f2,032mm F10), prime focus, Astronomik CLS Filter, ISO3200, 120sec x 36, Dark x 4, DeepSkyStacker, Photoshop CC

上記2つの写真、いずれも星雲の形はよくわかるくらいにはなったが、とてもノイズだらけである。光害の中で撮影して背景に埋もれたかすかな画像を浮かび上がらせるために極端に画像処理をしている結果だが、もっと時間をかけて多数枚撮影してなめらかな画像にしないといけなさそうだ。

また、現在揃った機材では焦点距離の長い鏡筒しかないため、基本的に小さめの天体しか撮影できなくて、広い範囲に広がった星雲など撮ることができない。それで、今回は季節的にもちょうどよいオリオン座の中に、単独では小さめな星雲があるのを選んでみた。他には、小さく淡い天体としては、赤外改造の効果はあまり出ないが、系外銀河なども狙っていきたい。

 

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Astronomik CLSフィルタ

これは、昨年末に買ったものシリーズではなく、もっとずっと以前に買ってあったものなのだが、これまでうまく活用できずに、このblogで紹介することもなくお蔵入りしていたもの。今回、他の機材の導入によって役立つようになったぽいので、今さらながら、ここでご紹介。

Astronomik CLS Filter

このフィルタはいわゆる光害フィルタで、CLSはCity-Light-Supressionの略。都市部の光害による光の波長の成分を除去して天体のコントラストを高めるためのフィルタ。色のついた星雲などには、特定の波長の成分で光っているので、それらの波長は通過させて、そのような成分のない波長で、都市の照明によく用いられる水銀灯やナトリウム灯などの波長成分を重点的に遮断するようにつくられたもの。実は昨年末あたりに、クワッドバンドパス (QBP) フィルタというのが脚光を浴びていたが、それはもっと通過帯域を狭めて、天体に必要な波長成分のみ残すようにしたもので、まあ考え方は結構近い。そんなわけで、流行りにちょっと遅れながらも半分だけ乗っかったような感じだ。フィルタの通過波長などに関して、ちょうどQBPに関するこの記事がとても参考になる。CLSフィルタはこの中で『従来の「強い光害カット」フィルター』と言われているものに相当する。

AstronomikのCLSフィルタには単なるCLSとCLS-CCDというタイプがある。CLSは通常のデジタルカメラ用、CLS-CCDは赤外改造をしたデジタルカメラ用ということだ。フィルタとして何が違うかというと、長い方の波長の透過率が、CLSではHα線以上が全部通しになっているのに対し、CLS-CCDではSⅡを超えた先はまた遮断するようになっている。

非改造カメラではもともと内蔵されている赤外線成分用のフィルタでHαの波長を含むあたりから先は遮断されているのでこちらのフィルタの方で遮断する必要がないのに対して、改造機では改造方法にもよるがその先の波長の長い赤外線も全部通してしまうので、天体の光の成分の含まれない部分をカットするようになっている。改造機によっては、もともと内蔵の赤外線フィルタを外した代わりに、Hαは通すがもっと先はカットするフィルタを装着しているものの場合はCLSでもよさそうだが、私が先日入手した改造カメラはどうも全部通しタイプらしいので、本当はCLSではなくCLS-CCDを使うべきところである。しかし、このフィルタを購入した当時はまだ改造機を持っていなかったので、非改造カメラで使うにはCLSフィルタの方が適切であろうとこちらを購入していた。

CLSCLS-CCD
CLSフィルタとCLS-CCDフィルタの通過波長帯域 (横軸の目盛りの幅が違うのに注意)

また、これらのフィルタには取り付け寸法などによって色々なサイズや形状のものがあり、主に円形のネジ込式のタイプだが、私が購入したのは、キヤノンのAPS-CサイズのEOSカメラのミラーの前の部分に取り付ける、Clipタイプ。カメラ側に取り付けるため、カメラの機種は限定されるが、レンズや望遠鏡は色々なものでも対応できる。ただし、APS-C用のEF-Sレンズで、カメラ側の先端が出っ張っているものはダメで、フルサイズ用のEFレンズでないとダメだが、EF-S仕様のレンズでもフルサイズ用と同じ位置までしかないものなら大丈夫で、他メーカー用と設計を共用しているサードパーティーのレンズでは、APS-C用のレンズでも大丈夫なようだ。

取り付けは下の写真のようになる。下の写真では斜めから見たときの反射の加減でフィルタが黄色く見えるが、透過時の色は最初の写真のように青っぽい色をしている。

取り付け前取り付け後
フィルタの取り付け前と取り付け後

購入当時なぜうまく活用できなかったかというと、このフィルタはかなりの帯域を遮断するために、通常よりも露光時間がたくさん必要になる。しかも、赤色の部分はHαに近い部分から長い側しか通さないので、非改造のカメラでは透過する光の成分がとても少なく、普通に撮影するととても青っぽい色に写ってしまう。赤色の成分も十分な光量になるようにするには通常の4倍くらいは露出をかけないといけない。

一方、私の撮影環境はというと、光害の多い街中で、NexStar 5SEでの、オートガイドなしでの撮影なので、追尾精度の問題ですぐにブレてしまうのとすぐに背景が明るくなってしまうからという点との両方の理由で長時間露光はできないが、まあある程度そのバランスが取れていたので、その範囲の露出での撮影をしていた。ところがこのフィルタを使うと、光害地といえども上記のように多くの露出が必要なのでどうしても露出が足りなくて赤の光が少なすぎる状態か、ISO感度を無理に上げてノイズっぽくなってしまうかということになってしまい、撮れた画像を処理にかけても、なかなかフィルタの効果のある画像が得られなかった。もっと高感度ノイズの少ないカメラならそれでもなんとかなったのかもしれないが。

ところが、ここにきて、架台はAVX赤道儀になってガイド撮影もできるようになって十分な長時間露光ができるようになり、カメラも赤外改造のものが用意できたところで、やっとこのフィルタの出番がやってきたということになる。実際、改造カメラを手にして撮った写真は、そのままだと確かに真っ赤に写るが、色バランスを整えてみると、期待し過ぎていたのかもしれないが、思ったほどには赤い天体がすごくよく写っているというわけでもなかった。そこで、このフィルタを使えば赤がよく写るようになっているのだから、効果がよく現れるのではないかということで、このフィルタに再登場いただくことになった。本来は改造カメラには赤外線のずっと波長の長い部分をカットするCLS-CCDタイプでないといけないのだろうが、ないよりはずっと効果があるはずである。

あまりに前置きが長くなったが、ここでとりあえず試し撮りで撮り比べた写真を。画像処理はせずに、1枚撮りでJPEGの撮って出しのまま。色別のヒストグラムを添付しておく。JPEG撮って出しなので撮影時のホワイトバランス(WB)設定がそのまま効いてくるので、WB設定も併記している。

まず1枚目は、赤外改造カメラそのままでフィルタなしの状態。2枚目がそのままCLSを装着しただけの場合で、WBもそのままなので、純粋にフィルタでカットされた分の色の光量が減った状態。全体にかなり暗くなる。非改造カメラよりは赤成分が多いとはいえ、WBで色バランスをとるようにしてあるため、フィルタをかけるとやはり赤成分が特に少なくなる。が、絵としてみると、背景は相当暗くなっているのに対して、星雲の部分も暗くなってはいるものの、ある程度明るさを保っており、全体としては暗くなっているものの、コントラストとしては確かによくなっているように見える。しかし、全体に暗くなっているせいで、星雲周辺の淡い色の部分はよくわからなくなってもいる。

3枚目はフィルタで狂ってしまっている色バランスをできるだけととのえるために、色温度10000Kの設定で撮影したもの。本来、マニュアルWBでフィルタ装着時に最適な設定にすればいいのだろうけれど、カメラのマニュアルWB設定は一通りしかないので、そちらを設定してしまうとフィルタなしのときの設定がなくなってしまうので、とりあえずこちらで。これでもまだ赤がだいぶ足りないが、前のものに比べると色の間の差がかなり少なくなっている。絵を見ると、背景の色もニュートラルに近くなり、星雲の本体がずいぶん赤く浮き上がるようになった。

しかし、やはりフィルタの減衰のせいで全体に光量が足りないので、4枚目はWB設定は同じままで露出を一段増やしたもの。画像処理の元画像に使うにはこのくらいの方がいいだろう。オリオン大星雲は明るいので、明るいほうが飽和気味になっているが、そこまで明るくない天体ならもう一段増やすくらいでもいいかもしれない。

フィルタなしフィルタなし
フィルタなし (改造機用マニュアルWB)

CLS マニュアルWBCLS マニュアルWB
CLSフィルタあり (改造機用マニュアルWB)

CLS 10000KCLS 10000K
CLSフィルタあり (色温度10000K)

CLS 10000K 露出多CLS 10000K 露出多
CLSフィルタあり (色温度10000K、露出1段増)

いずれも 2018/12/21 Canon EOS 60D(mod), Celestron EdgeHD 800 (D203mm f2,032mm F10), prime focus, ISO400, 120sec 4枚目のみISO800

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William Optics ヘリコイド付き 90° 正立天頂プリズム

昨年末に買ったものシリーズその5。William Optics社製のヘリコイド付き90° 正立天頂プリズム。

90°正立天頂プリズムはNexStar 5SEで以前から使っているが、EdgeHD 800を買って付いてきたのはやはりNexStar 5SEに付いてきたのと同じ通常の鏡像になる天頂プリズムなので、正立天頂プリズムを使うにはNexStar 5SEにセットにしてあるものを外して持ってこないといけない。かといってNexStar 5SEで使わないわけでもないので、それぞれで使うたびに取り替えないとけないのがわずらわしいと感じていた。それで、それぞれにセットしておけるように、もうひとつ正立天頂プリズムを買おうと思った。全く同じものを買うのも芸がないので、鏡筒もグレードアップしたのだから、正立天頂プリズムも1クラス上のものを買おうかと思った。選択肢は、笠井のDX版かこのWilliam Opticsのもののどちらかというところだった。William Opticsのものは以前はなんでわざわざ天頂プリズムにヘリコイドがついているのかと思っていたが、EdgeHD 800でピント合わせ時のミラーシフトに悩まされてからは、なんとこれを使えば別に合焦装置を買わなくてもミラーシフトに悩まされずにピント合わせができるではないか (天頂プリズムを使う眼視のときに限られるが) と思ってこちらを購入してみるることにした。

接眼レンズを取り付ける側にヘリコイドがついていて、その分だけ見た目がずいぶん太くなっている。全体がスリーブ部とあまり太さの変わらないアイピースを装着すると、見た目上少しアンバランスな感じがする。セレストロンの鏡筒に付属してきたアイピースは滑り止めのゴムの模様がこの天頂プリズムのヘリコイド部についているものと見た目全く同じで、デザイン的には揃ってはいるのだが。この太さにふさわしいのは、やはり首から先が太くなったタイプの接眼レンズだろう。

Plössl 25mm 装着時 X-Cel LX 7mm 装着時
Plössl 25mm 装着時 と X-Cel LX 7mm 装着時

ヘリコイド部は全部で約1⅔回転し、光路長は実測で15.2mm変化する。EdgeHD 800本体のピントノブの回転でのピント合わせに比べると非常にゆっくりした動きになり、動く範囲は狭いので、大まかには本体で合わせておき最後の微調整をヘリコイドで行うという操作形態になる。

Willam Optics ヘリコイド付き 90°正立プリズム Willam Optics ヘリコイド付き 90°正立プリズム
ヘリコイドを縮めたところと伸ばしたところ

実際に使ってみると、ミラーシフトから開放されると思ったが、接眼レンズ近くのヘリコイド部を手で持ってねじるという動作をしないといけないが、回転摩擦は結構重くて割と力を入れて回さないといけないので、そのせいで鏡筒を揺らしてしまってミラーシフトはしなくても、非常にスムースにピントが合わせられるかというと、そうでもない。ピントの動き自体は非常にゆっくりなので、ゆっくりすぎてどこがピントの山か、少しぐらい回しても変わらないんじゃないか、くらいの感じである。

見え味の方はというと、正立タイプ対通常タイプの比較の場合もそうだったように、普通に見ている分にはどうもそれほどよくわからない。しかし、よくわかる点はひとつある。1等星くらい以上の明るい星を見ると、プリズムの稜線に垂直な方向、つまり普通に見ている場合は左右方向に光条が出て見える。これが、これまで使っていた正立天頂プリズムに比べて激しい。これまで使っていたものでは視野の数分の一の長さくらいにしか出ないのに、こちらでは視野の端から端までに達するくらいに見える。光条が強く出るということは、値段の高い製品ゆえ、プリズムの稜線がよりシャープに加工されているからということになるのだろうか、よくわからない。しかし光条が見えるのは邪魔だ、といっても明るい星が視野にある場合だけだが。

眼視で見ている感じとはずいぶん違うが、天頂プリズムに、お気軽撮影ズームアイピースアダプタを付けて、PowerShot S120を使ったコリメート撮影で恒星像 (リゲル) を写したのを比較してみた。

β Ori
William Optics のヘリコイド付き正立天頂プリズム

β Ori
笠井の安価な方の正立天頂プリズム

β Ori
通常タイプの天頂プリズム

Canon PowerShot S120 7.48mm F3.5, ISO1600, 8sec, Celestron EdgeHD 800 (D203mm f2,032mm F10), Celestron 8-24mm Zoom Eyepiece (@24mm), Afocal Method

左右に伸びる鋭い光条以外にも、全ての天頂プリズムで6方向に幅の広い光条が出ているのもわかる。これは、プリズムの反射面が正方形や長方形ではなく、丸い光路にあわせて角を落とした六角形状になっているためだろう。光条以外の暗い星の像や背景はどうだろう? やはりあまり大きな違いはないように見える。ヘリコイドが必要なければ、光条のことを考えると、笠井の安いものの方で十分だった気がする。ちなみに、笠井で買ったから笠井のと言っているが、他から出ている同クラスのものはだいたい外見がそっくりでこれと同じもののように思われる。

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